『恐怖箱 死語』


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竹の子書房から出された実話怪談集であるが、一つのテーマに従って書かれている。かつての流行語をタイトルにして、そのタイトルに即した内容の怪異が綴られている。遊び心で作られたと言ってもおかしくないだろう作品である。
内容の方は、正直、珍奇なもの特異なもの、あるいは強烈な怪異というものはほとんどない。怪異の方も、ある意味定番中の定番であり、“死語”的な印象を持つものである。おそらく商業誌に載せれば読者からお叱りを受けるほど、ありふれた怪異が並ぶ。だが、タイトルとの絶妙なリンク、そして切り詰められた文章(全編1ページで収まる)によって、サクサクと読める。そういう飄々とした印象を持つ作品に仕上がっていると言えるだろう。怖さというよりも、読者がなるほどと膝を打ってくれることを目的に作られた作品である。個人的には落語の小咄のような出来という印象を持った。
怪談を書く目的の一つに“公開することが供養に繋がる”という発想がある。こういうありきたりな体験談であったとしても、そこには何かしらの因果があることは間違いない。少々雰囲気は変わるかもしれないが、この作品にあるような創意工夫によって人目に触れる機会を与えられることは、もしかすると良いのかもしれないと思うところがある。もちろん中には「不謹慎だ」と目くじらを立てる人もあるかもしれない。だがそのような怒りをぶつける人も、一読されると良い。タイトルはふざけていようが、作者の怪異に対するまなざしは決してそれらを貶めるつもりで書いてはいないことは明白である。
まあタダだし、一度ダウンロードして目を通してみてから評価されることを期待したい。