『笑怖箱 マイ怖』


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厳密に言うと、この作品集は“実話怪談”の範疇に入らないとする意見も出てくるのではないかと思っている。タイトルにある通り、著者の「怖い」と感じた事柄を次々と並べていくという展開であり、全てが心霊的・超常的な内容に関係しているわけではないからである。
特にこの作品集の色合いを左右しているコンセプトは【夢】である。ところがこのキーワードが曲者なのである。見た人がいるのだから“実話”であり、内容によっては“恐怖”をもたらすものであると夢を定義づけることは可能である。ところが“実話怪談”の中に夢を持ち込んでしまうと、途端に内容が胡散臭いものになってしまう。特に“夢オチ”で終わってしまう内容は、ある意味客観性を証明することが不可能であるが故に禁じ手と言われてしまうレベルである。いわゆる“悪夢”と呼ばれる内容が散りばめられ、更に夢から派生した話が多いために、実話怪談の持つリアリティーという部分については非常に弱さを感じざるを得ない。
しかし、この作品集の面白さはこの曖昧然とした感覚が生み出していることも事実である。夢なのか、はたまた本物の怪異なのか、その判断を体験者である著者すらも決めかねている状態で途切れてしまうような展開が並ぶ。「これは正真正銘、絶対間違いなく超常現象だ!」と断言できる作品は実に少ない。むしろ「さっきのは何?」という感じの、消化不良寸前の終わり方の中に、ほんのりと恐怖を感じてゾクリと来る。その微妙な境界線上の表象の一つとして【夢】が置かれているように見える。まさに夢の続きのような現実に放り出された瞬間の困惑と絶望を構築させるのが目的のような印象すら受けるのである。ただし残念なことに、こういうタイプの恐怖譚は、どうしても恐怖の針が振りきれることが少なく、商業誌のような不特定多数の需要を満たす世界では微弱な存在だという現実もある(とか言いつつ、前半部分にはかなり希少な実話怪談もさりげなく置かれていたりするのだが)。
一見無造作に並べられている作品群であるが、著者の恐怖感の源泉を辿りたければ、ドミノ倒しよろしく順序正しく読むべきである。途中でいくつかの支線に入り込んでおちゃらけもするが、【夢】というコンセプトを捉えて本線を見失わないように読むことで、最終作の持つ恐怖の本質を明確に理解することが出来ると思う。ほんのりとした恐怖が微熱のように続く怪異譚もまた一興というところである。