『恐怖箱 探冥』


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3冊目の紹介になるが、竹の子書房(無料で読める電子書籍)の作品である。
心霊スポットを扱う作品は数多いが、その中でも異色の作品である。スポット紹介となれば、当然情報の蘊蓄を語るわけであるが、この作品は単に情報だけを集めて構成されているわけではない。著者自身が現地に赴いて感じた内容を織り交ぜることで、むしろ紀行文的な雰囲気を醸し出しており、そういう意味では単なるガイドブックの体を成しているわけではない。さらに言えば、情報を組み合わせることで、新たな視点を作り出そうという試みが随所に見受けられる。悪く言えば、独善的な解釈を施すことで奇抜な印象を植えつけようとしている、良く言えば、新たな視点を取り入れて心霊スポットの持つ固定観念に変化を付けようとしていると言えるだろう。とにかく今までの心霊スポット紹介本とは一線を画する内容になっている。
過去の紹介本とは異なるのは記述内容だけではなく、そのスタンスである。取り上げられたスポットに関する情報は他のものとは変わりはないが、それを使って恐怖を煽ろうとする気配はない。むしろ冷静に、というよりもかなり懐疑的な文章が並んでいる。さすがに否定的な見解まではいかないが、反面、肯定的な書き方も一切ない。とにかく情報を客観的に書き連ね、淡々と事実を積み重ねていくのである。その姿勢は、肯定派とか否定派といった個人的主観を振りかざすことで自己主張するのではなく、スポットそのものに事実を語らせ、その如何を読み手に直接考えさせるかのような書きぶりであると言える。しかし、その突き放したようなスタンスは、機械のような無機質的な冷たさを持ち合わせてはいない。むしろその冷徹な筆致によって心霊スポットの置かれた特殊な事情が却って明らかとなり、そしてその透けて見える裏側に鬼火のように照らし出される著者の強い想いというものを感じ取ることが出来るだろう。
もしかすると著者は、心霊スポットという題材を通して、怪談話で語られる哀感や悲嘆といった負の感情を発露させようとしたのではないかと想像できる。そこで何が起き、そしてどのような経緯があったのかを粛々と書き記すことで、単なる“肝試しの場所”という格段に低い興味本位の次元から心霊スポットの存在を解き放つことを目的にしているようにも見えてくるのである。かつてそこが平凡な場所だったという記憶から書き起こすことで、心霊スポットと化してしまった現在に至る流れの中に、感情的にならざるを得ない“澱=業”を掻き集めようと試みているのだろうか。だからこそ、何か読み手に迫ってくるウエットなものを常に感じてしまうのである。
この作品が1作目ということで、これから続刊となっていくとのこと。これからどのような心霊スポットが取り上げられ、そして新しい生命を吹き込まれていくかが楽しみである。「心霊スポット本など読みあきた」とお嘆きのマニアにこそ読んで欲しい一作ということである(無論、あやかし初心者の皆さんも十分堪能できる内容だと思う)。