『怪談社 乙の章』

怪談社 乙(きのと)の章 (恐怖文庫)

怪談社 乙(きのと)の章 (恐怖文庫)

前作は正直、周囲からあまり評判宜しからずという烙印を押されてしまった格好であったが、今作はうってかわって、非常に正統派に近い書きぶりであり、ネタでギッチリ勝負してきたという感がある。個人的には“きちんと無難な文章で書けば、当然ネタで劣っているわけではないので、読み応えのある内容になる”と前作を評していただけに、納得のいく作品であると評価したい。
今作は、前作と比べると、ライブで披露した作品が入っている率が少々上がっているように思うが、それでも初見の作品の方が半数を超えている。約半年だけのブランクでそこそこ以上の怪異譚を集めて刊行している点は、さすが怪談蒐集者と自負するだけの力量であると感嘆に値する。「怪談師の日常」のコーナーで大見得切っているだけに、この有言実行ぶりは、もう少し注目されても良いのではないだろうか。
オーソドックスな書きぶりに対して、今作でも「怪談師の日常」コーナーが置かれている点であるが、個人的にはマイナス評価であるとは感じない。おそらく今後の道筋として長期レギュラーで刊行が続くことになればなるほど、このコーナーは怪談社のキャラクターの固定化、そしてポジショニングの明確化に大きく寄与することになると予想している。今までの怪談書きと比較して「生意気だ」と憤慨される向きはあるかもしれないが、上質のネタを提供し続ける力がある限りにおいては、こういう大上段に振りかぶって物を言う場があっても良いと思うし、単なるオチャラケの場になっていない分、怪談社のポリシーというものが透けて見えて、個人的には好感を持って受け止めている。
全体として“きつい一撃”のインパクトがあまり出てこなかった分だけ、水準を超えてはいるものの、中の上クラス(佳作)の評価である。具体的に言うならば、きちんと書こうとする意識が強くて、文章のメリハリが弱くなったために、荒ぶる恐怖の部分も落ち着き払った印象を受けてしまったということである(この文章レベルが楽々クリアできるのであれば「ライブやるんじゃなくて、物書き専門でいけよ!」と突っ込むことになるだろうが)。今後の期待も込めて指摘しておきたい。