『女たちの怪談百物語』

女たちの怪談百物語 (幽BOOKS)

女たちの怪談百物語 (幽BOOKS)

タイトルもシンプルだが、内容も実にシンプルである。10名の女流怪談作家が一堂に会して怪談を語り尽くすだけ、その記録と言うべき99の怪異譚が綴られている。しかしこういう単純な形式のものほど下手な小細工が出来ない分、はっきりと作品内容の実力が見えてくる。結論から言うと、“百物語”という形式を踏襲して編まれたものとしてはなかなか上品、会そのものの雰囲気が非常によく見えていて、なおかつそれなりのレベルの怪異譚がバリエーションを持って語られている。おそらく会場でライブを見聞していても味のあるものだったに違いないと思わせるだけのものだと感じる。
女性ばかりが語るという新奇さよりも、10名という人数が“百物語”を実施する上で非常に適正な数であり、王道ではないかという思いが強い。集まった面々がそれぞれ作家として実績があるためなのかもしれない、またそれぞれが異なった個性を持って活動されているせいなのかもしれないが、とにかく怪異のバリエーションが明確であって、飽きさせない。いわゆる“見える人”がその自己体験を語る正統派から、心霊的な要素が殆どない気色悪い変化球まで、それぞれの尺度で“恐怖”というものを語ることで、広がりが出ていると思う。だが逆に10名だけなので、それぞれの個性が埋没せず、しっかりと各人の思うところの“恐怖”もきちんと演出されていたと感じる。ここが個人的に“人数が適正である”と思うところであり、単なる一回きりの語りの会ではなく、こういう書籍の形態でも十分読むに耐えうるだけの堅牢さに繋がっているのではないだろうか。
かの伝説的名著である『文藝百物語』の高みにまでは到達しているとは言えないが、ただ“百物語の会の再現”というコンセプトから見れば、目的は達成されているのではないかと思う。その点を考慮すれば、今作の一番の功労者は、全員の語りを書き起こし、会全体の統一感を書籍の中で作り上げたであろう、構成担当の門賀美央子氏だと感ずるところである(勿論、語りを披露された各作家の皆さんがあればこそであるが)。11人目の語り部ということで、特に名前を挙げておきたい。
強烈な恐怖譚が読みたいという読者には少々ぬるいという印象もあるが、全体としてはしっとりとした怪異が多く(敢えて“女性特有の”という表現は避けたい)、落ち着いた雰囲気が強い作品である。怪談初心者に是非読んでもらいたいという感想である。