【0】帰り道

ネタとしてはかなり恐怖感を煽る内容なのであるが、体験者自身の言動に問題があるように感じる。
“毎回必ず起こる”怪異であり、それに対して毎回のように驚愕しているのだが、よく考えるとそれだけ怖いのであればわざわざ原付で片道30分以上掛けていくバイトを辞めればという気になってくる。
また「直前までは考えている」と言っているのだから、バイトが終わって暗くならないうちに帰ればいいにもかかわらず、雑談をして時間を潰している。
結局毎回起こる怪異をころりと忘れる本当の理由は、実はこの怪異に対して恐怖心を抱いていないのではないという疑念すら生じてくる。
“必ず起こる怪異”というのは、相当強烈な怪異であることは間違いない。
だが、それは抗うことができない状態で不可避の出来事として体験者に降りかかるから恐怖なのであって、この作品のように本人の意志でどうにでも変えられる状況だということになれば、雰囲気は一変するだろう。
特定の怪異について体験者が恐怖心を感じていないと読んでしまうと、その怪異は途端に色褪せてしまう。
この作品でいえば、体験者のプロフィールを極力表に出さずに怪異の現象だけをクローズアップさせて書いたならば、もっと際立った恐怖感を出すことができたかもしれない。
言わずもがなの部分で本質を損なうようでは、やはり高い評価はできない。