【−4】配達先

廃墟同然の集合住宅から注文があり、バイトの子がそこへ配達しとんでもない怪異に遭遇する話は、時々見かけるストーリーである。
この作品もそれらの先例と全く同じ展開を見せている。
だが決定的に違うのは、体験者が見紛うことのないあやかしに遭遇していない点である。
例えば、うっかり室内に入ってしまったためにあやかしを目撃した、廊下や階段で異様なものに遭遇してしまったなどの具体的な内容がこの作品にはないのである。
つまるところ、体験者の体験とは、かなり雰囲気の怪しい場所に配達に行って、ちょっとした好奇心のせいで怖い目にあったと“感じた”というレベルにとどまっている。
この建物内に自分以外の何者かが潜んでいるのはわかるが、それは単にそこの住人である可能性があり、あやかしと決定づける確証と言うべきものがない。
また「白い靄」についても、しっかりとした言及がなされていないために、結局物理現象としての靄というレベルで終わってしまっている。
配達先から帰った後、店主からそのフロアには人がいない旨を伝えられてはいるものの、あまりにも雰囲気先行が激しすぎて、本人だけが「怪異である」と思い込んでいるようにしか見えないのである。
というよりも、体験者が感じ取った異様な雰囲気と“怪異の原石”とも言うべき現象について、作者がそれを怪異であると読者を説得出来なかったという感が強い。
別の言い方をすれば、怪異の肝となるべき部分を作りきることができなかったということになると思う。
お化け屋敷に入ってみたら途轍もなく怖い雰囲気だったが、出てきたお化けが作り物丸出しだったというオチで終わってしまったような印象である。
読者を怖がらせようという努力は買うが、明確な怪異を読者に提示できなかったのは致命的であるだろう。
優れた先例を持つパターンに属する作品であったことも、低評価へと繋がったことは特に明記しておきたい。