【+3】やしろ

全体的な印象として冗長さと饒舌さを感じた。
まず怪異の肝である鳥居の出現に至るまでの経緯が非常にまどろっこしい。
怪異自体が起こっていないわけでもないが、ここまで話を広げてもよいのかという感想である。
ガテンの人達の会話などは興味深い内容ではあるものの、ストーリー全体から見るとどういう効果があるのか微妙なところだと言える。
はっきり言えば、話者が気に掛けていたということを書いているだけで十分話は通じているし、それだけの方がむしろすっきりとした展開になるはずである。
さらに話者のキャラクターが邪魔。
この存在によって話自体が非常に軽いノリになってしまっている。
果たしてこの軽妙な雰囲気をこの怪異が必要としたのだろうかと考えると、却って損をしていると言える。
体験者が鳥居の出現に思わず柏手をうった場面などは、ノリの軽さが災いして非常にまずい印象すら持ってしまった。
ウエットで重い文体にまですると逆効果であるが、もっと淡々とした書き方で十分だったと思う。
さらに言うならば、体験者とホテルの後日談も鳥居の怪異との関連性が薄く、余計な付け足しのように感じるところが大きい。
ただし評価すべき点も多々ある。
まず鳥居の霊とも言うべきものの出現がまさに希少。
しかもちゃんと神様が出現するかのごとく、太鼓の音が聞こえてから現れるディテールも秀逸である。
そして個人的に最も高く評価し、作者の怪異に対する認識レベルの高さを示していると思うのは、鳥居が“7階”の部屋に現れたと書いている点である。
この表記には思わず息を呑んでしまった。
取り壊されたビルが“6階”建てであり、その“屋上”に鳥居が鎮座していたのである。
つまり出現の根拠をさりげなく書き込んでいるのである。
こういうディテールに気が回る作者だからこそ、もっと正統派の書き方で勝負していただきたかったと思う次第である。