【+3】山狩り

希少性の面で十分評価すべき作品である。
戦時中の怪談ということもあるが、“山神様”というものが具体的に現れた(しかも人間体ではない)話は滅多にお目にかかったことがない。
加えてその容姿があまりにも圧倒的な異様さであるから、ますます凄さを感じる。
ただ話してくれた母親自身も実際にこの“山神様”を見たわけではなく、その点を考慮すると、描写が少ないのをあげつらうのは少々酷なような気もする(ジャンキーとすればここが一番見たいのであるが、風化に対しては如何ともし難いのが現実である)。
逆にもっと書くことが出来ただろうと思うのは、怪異のあった山に関する説明である。
具体的な名称や伝承を書けとまでは言わないが、何かしらの謂われのさわりだけでもあれば雰囲気は大きく変わったと言えるだろうし、“山神様”に対するリアリティーが断然強くなっていたと思う。
またその山の状況に関する情報(禁足地であったかなど)は集められると思うので、そのあたりを補強すればもっと違った印象を与えることが可能だったのではないだろうか。
戦時の怪談の中でも異色というべき内容であるが、その時代の特殊性を上手く取り入れたところも評価させていただいた。
文章技術がもう少し洗練されていたら、素晴らしい作品になっていただろう。