【0】お互い様

この作品に書かれている怪異のほとんどは、思い込みや偶然の産物であるとして斥けられてもおかしくない存在である。
呪いを実行してから起こった身の回りの不幸や異変はすぐに超常的な怪異であるとは言えないし、手の甲の赤い点や蛆が湧いてきた事実も環境に関するそれ以上の記述がないので判断が微妙なところになる。
そしてぬいぐるみの一件についても、もらった時期も書かれていないので、事故なのか故意なのかの判断すらままならない状況である。
というよりも、彼氏が本当に体験者と同じ気持ちで呪っていたかどうかの確証は何一つない。
厳しい見方をすれば、全てが体験者自身の思い込みだけで組み立てられている、いわば妄想に近い内面の葛藤を書き綴った内容であると指弾することも出来るのである。
しかし「呪いとは呪われた相手がそうであると認識した時に成立する」というルールに従うと、この作品は体験者自身が呪われている(正しく言うと“呪い返し”の一種かもしれない)という確証を持つに至った経緯が書かれている、まさに正統派の呪い話なのである。
ただ体験者自身が“呪い”であると意識するに至った物理的証拠に関する説明が不足しているために、読者を納得させるだけの説得力に欠けているだけなのである(この部分の弱さについては大きく減点しなければならないほどのレベルである)。
この作品をマイナス評価としなかったのは、全体を支配する“歪んだ負の感情”の発露を認めたためである。
客観的怪異には乏しいものの、読み手に負の感情を植えつけることに成功していると言えるこの作品は“怪談”としてはほぼ間違いなく成立しているだろう。
功罪相半ばしての0点ということで。