【+1】幽霊家族

もっと強烈な怪異譚になるはずの要素を持ちながら、最後まで不発のままで終わってしまった感が強い。
話の中心が、より微小な怪異の体験者である兄を中心に書かれているために、より鮮烈な妹の体験談が触りだけで終わってしまっているところが物足りなさを感じさせる点であることは間違いないだろう。
これは明らかに取材不足である。
また、家に取り憑いた複数の霊がもたらす典型的な霊障である“家族の不幸”であるが、これも事実が書かれているだけで、霊との因果関係がある程度透けて見えるようなカギの部分が全く提示されていない。
おそらく因果関係があると推測できるのであるが、一行程度の記述で片づけられてしまっては、因縁話としては食いつきが足りないとしか言いようがない。
そして最後の扉の音であるが、これも偶然と言われても致し方ない状況になっている(ただしこれは、この事象そのものの弱さと言うよりは、それまで蓄積されるべき怪異への恐怖心が弱いために、そうとしか受け取れなかったことの方が原因だと思う。母親の最後のセリフが効いているだけに残念)。
家に住んだだけで数々の霊障に襲われるという話は、それだけで十分な大ネタである。
しかし、いくら大ネタであったとしても、十分な取材がなされなければ凡作に陥ってしまう(単なる噂話として人に聞かせる程度ならば、これで良いのかもしれないが)。
結局、この作品は取材方法や筆法に問題があるために、せっかくのネタが殺されてしまったと言うべきだろう。
これだけの強烈な内容でありながら一番の怪異が“物音”では、評価を低くせざるを得ないところである。