【0】親譲り

“見える”能力は元々生まれつきの素質であることの方が多いので、遺伝するものであるという見解である。
ただその確率から考えると、母親自身や母方の血を受け継ぐというケースが大半であり、父から息子へというパターンは珍しいのではないだろうか。
それ故に、体験時の年齢や見えるものが一致するこの作品のようなケースはかなり希少性が高いと思う。
しかしそのような希少性が認められるが故に、作中で語られない情報の中で非常に重大なパーツがあると言える。
父親と息子が体験した場所が同じであるかどうかという情報が書かれていない点は、やはりこの作品の価値を左右するほどの問題であるだろう。
書かれている内容から推測すると、二人は同じ家の中の同じ場所で似たような怪異を目撃しているのではないだろうか。
もしそれが事実であるならば、“見える”能力が永続的なものとして遺伝するよりもさらに希少性がある。
まさに期間限定・場所限定の能力であり、特殊性が増すことになると思うからである。
逆にこれが書かれていないためにその特異な部分が言及されずに終わるわけであり、作者自身が怪異の持つ価値に気付いていないと言うべきであろう。
その一点だけがこの作品のウイークポイントであり、なぜ書き落としたのであるか不思議でたまらないところである。