【−4】帰宅まで

まさにプチ“浦島太郎”現象が起こってしまったという怪異であるが、致命的な問題点がある。
まず、体験者達が直前まで酒を飲んでいたという事実が書かれている点。
どこまで酔っているかは不明であるが、この前提がある限り、信憑性は相当あやしいと思って読まなければならないだろう。
特に怪異が“時間経過”に関するものであり、普通に酩酊状態であれば時間感覚が正常でなくなる(あるいは一時的に記憶が飛ぶ)ことはよくある現象ということもあって、余計にあやしいという印象を持った。
さらに言えば、1時間以上経過していると言っている友人達も酔っている可能性が高く、果たして彼らの証言もどこまで正しいかが疑問の対象となる。
つまり、この作品の根本的な欠陥は、“客観的”な時間の計測についての情報が全くないということに尽きるだろう。
体験者が買い物に出た時刻も書かれていなければ、戻ってきた時の時刻も判らない。
時計でなくとも、放映されているテレビ番組であるとか、コンビニのレシート記録であるとか、はっきりと時間経過が提示できる物証が提示されていれば、また話は別になると思う。
ただ体験者は15分程度の時間経過だと主張し、友人は1時間以上は経っていると言っているだけであり、完全にお互いの“主観的時間経過”のズレを語っているに過ぎないのである。
この状態では、体験者達が酔っているという事実がなくとも、怪異であると決定付けるための情報に乏しいと言わざるを得ないだろう。
また“霊感の強い広瀬君だが、最近は特に怪異に遭う事が多くなっていた”という記述があるために、作者自身も体験者の弁を鵜呑みにして、客観的な証拠の積み上げによる信憑性の構築をしていないのではという気にさせられる。
いずれにせよ、書かれた情報から読みとれる範囲では、怪異とはみなせないというのが正直なところである。