【+3】少女時代

何ら劇的な盛り上がりもなく、ただ淡々と霊体の目撃の記録が書かれているだけのであるが、すごく魅力的な作品に仕上がっているという印象である。
ほとんど説明的な文がなく、描写を中心として展開されているために、非常に詩的な雰囲気が強いためであろうか。
とにかく短い文を丁寧に折り畳むように、体験者と霊体の接点を持たない交流が時系列に従って書かれているのが何とも良いとしか言いようがないのである。
饒舌で勢いのある筆力の持ち主はこの大会でも見かけることが多いが、こういう研ぎ澄まされた言葉を端正に並べていく書きぶりはちょっと真似できないと印象である。
またこの文体と体験者の感傷が見事に合っており、この年頃の微妙な感情というものが透けて見えてくる思いがする。
まさしく『少女時代』というタイトルに合致する雰囲気が、作品内で醸し出されていると言えるだろう。
ただ惜しむらくは、父親にまつわるエピソードを加えすぎた点。
父の死は一つの転機となるかもしれないが、それ以外の部分、特に霊体に関する記述は全て省いた方が、却って体験者と“美波”との静謐な物語がより輝きを増したように思う。
怪異としては小ネタの部類に入るが、怪談としての完成度が高いということで評価したい。