作者別短評(2)

本日も、講評の前に関連事項を…
昨日も少々匂わせて書いていたが、この大会にエントリーされている何割かの方は【書くこと】を非常に意識して、一つの修行の場として作品を公開されていたように思う。
それが顕著に出たのが“リライト”部門の活発な動きと言えるだろう。
今大会講評参加宣言の際に「リライトの評もやっちゃうよ」とか大口を叩いたが、結局気付くと全然やらずじまいであった。
しかも【全作コンプリート】という想像を絶するような大馬鹿野郎(最大級の讃辞)まで出てきてしまった。
これはある意味、この大会が飛躍的に成熟しているという証拠ではないかと思う。
個人的には“怪異の本質を正しく見極めれば、自ずと書き方は決まる”というのが持論であるが、リライトに関しては特別な場合を除いて「可」という意見である。
書き方が決まったとしても、書き手本人にそれを書き切るだけの力がなければ、最大限の効果を出すことが出来ない。
さすがに「オレは霊とコンタクトして自動書記で作品を書いているのだ!」と豪語する者はいないと思うので、やはり表現力や語彙力を伸ばす必要性はある。
昔の“小説読本”などには、修行の一手段として“先達の名文を書き写しなさい”というのがあるが、リライトはそれに近いものがあるだろう。
だから大いにやればいいと思うし、そういう機会をこの大会が生み出しているのであれば、それは非常に有意義なものであるだろう。
だが、己の表現能力を高めることは、この実話怪談の世界に限れば、怪異の伝達精度を上げるためであると言いたい。
自己表現の手段として実際の怪異体験談を使うことは、決してやってはいけないことであると思う(他のジャンルでそれを発揮することは吝かではないが)。
昨日の苦言の真意はそういうところにあるということで。
(ちなみにリライトの講評の件であるが、現状では不可能ということで…大変申し訳ないです)


【No.10】
非常に手堅い文章であり、特に日常にふと遭遇する些細な怪異をネタに短い作品を編ませたら、今大会屈指の力量があるのではないかと思う。
平凡なネタであればあるほどこの作者の巧さは光っており、的確な描写と構成で読ませてくれる。
ただ問題は、長目の作品や説明的な描写になると力が出ないのではという不安材料(『訪問者』がそれ)が残る。
総体的には、安定感のあるなかなか侮りがたい存在という印象である。


【No.11】
適度に体験者の語りを挿入してストーリーを展開するというフォーマットが確立されており、作品の長短はあるもののその正統派の形式で押しまくっているという印象である。
それ故に連続して同定された作品を読み直すと、かなり画一的な構成パターンが少々鼻についてしまった。
またタイトルに気が利いたものが少なく、とにかく散らばって公開された時のインパクトよりも同定後に作品群が並べられた時の方が弱さを感じてしまった。
ウエットな作品の感傷ぶりに賛否両論あるが、概して上質の作品が提示できるだけの力量があることは間違いない作者であるだろう。


【No.13】
描写ではなく説明を基調とした書きぶりでちょっとした異彩を放っているが、説明文独特のくどくて読みづらいという印象はあまりない。
ただ一歩踏み外してしまうと、やはり説明調がネックとなってリアルな緊迫感が出ずに損をしているように感じる作品も見られた(『騒々しい』『あっちゃん、やめてよ』あたり)。
説明と描写のバランスが上手くコントロールできるようになれば、面白い存在になるのではないだろうか。


【No.14】
粒ぞろいの大ネタを揃えて最終盤に出してくるあたりは、なかなかしたたかな戦略である。
しかもそれだけの筆力を兼ね備えた実力者ぶりを発揮している。
『突き飛ぶ』だけはキャラが立ちすぎて賛否が分かれたが、それでも筆力が劣っているというわけではないので、作品の完成度では十分の内容であるだろう。
問題はやはり応募数が少なく、真の実力がどこまでなのかが未知数であるということに尽きる。


【No.15】
作者同定で一番驚かされたのはこの作者である。
完成度の高い格調ある文体からオチャラケとしか言いようのない駄文まで、ほぼ全作品バラバラの印象なのである。
文章を書くという技術的なポイントでは、抜きんでた存在と言っていいと思う。
さらに公開日と作品内容を重ね合わせると、余計に謎が深まるばかり。
おそらく怪談のツボを押さえている人物が色々と実験をしているのではと思わせるところがある。


【No.16】
因果物に一日の長がある、なかなかの書き手であると思う。
筆力もかなりあるのでそれなりに点数も稼げるのであるが、怪談作品としてみた場合、低評価を受けている作品はかなり消化不良を起こしているもの(中途半端な終わり方をしているもの)が並んでいると言えるだろう。
正直なところ、この作品間のムラは看過できないという意見である。
やはり締めくくりの“落としどころ”に難があると言うべきなのだろうか。


【No.17】
良くも悪くも“問題作揃い”、僅か4作品ながらインパクトは強烈である。
点数が伸びなかった最大の原因は“作り込みすぎ”という雰囲気がプンプン漂うところであることは間違いない。
はっきり言うと、このスタイルで行く限り読者の評価は受けづらいだろう。
おそらく「創作系」出自の作者であると思うが、実話独自のリアリティーをどう作品に反映させるかがカギになると思う。