作者別短評(4)

【No.25】
同定された作品群を見て思ったのは、怪談慣れしていないという印象が強いことである。
『『天』』はその際たる傾向のもので、これだけ有名なネタを直球勝負で(しかもベタベタのタイトルで)出すのは、怪談読みが集う大会では避けるべきだったと思う。
他の作品でも、怪異の肝の提示において少々まどろっこしさを感じたり、逆に早い段階で展開が見えてしまったり、筆力がある分だけ微妙なところで問題点を感じてしまった。
ネタの引き当ても良いので、経験を積めば化ける可能性はあるのではないだろうか(期間中の改善も見られたので)。


【No.26】
今大会はどちらかというと“長文・饒舌”の傾向が強いのであるが、この作者の場合はその逆でパーツ不足が非常に目立っている。
この傾向がいわゆる“投げっぱなし怪談”という超短編でも現れているため、かなり厳しいものを感じてしまう。
おそらく本人の中では“既成事実”として成立しているのだろうが、それが完全にアウトプットできていないために説明不足という印象を免れることが出来なかったと思う。


【No.28】
この短期間に42編を投稿したという事実だけで十分リスペクトに値する。
だが、作品の素点での平均が、全応募作平均を下回るということも事実である。
この2つの事実の兼ね合いが、この作者に対する評価の分かれ目になると思う。
作風としては怪談の正調をしっかりと踏襲した印象が強く、バリエーションもそれなりにあってしかも安定した書きぶりに徹していると思う。
個人的には、数にこだわりすぎたのではないかという気もしないでもない。


【No.29】
全体としてはサバサバとした書き方で、まとめて読むと何とも言えない味わいがあるように感じる。
それなりに怪異を咀嚼して提示できている印象があり(『午睡』ではきつい評価をしたが、表記が問題であって構成面ではあれで正解だったと思う)、もう数作品あればまた違った評価が下せたのではないだろうか。
少し気になる部分のある作者であると言える。


【No.31】
主観が大きく入り込み饒舌という、どちらかというとあまり好まれない書き方の作品が並ぶ(『九十番目』は本人の体験ではないので外れるが、それでも冒頭に“私”が登場している)。
特に大きく点数を引かれた作品ほど、その主観と思い込みが激しく鼻についていると言っていいだろう。
またその饒舌ぶりがまとまりに欠けた語りになってしまっており、余計に苦しい印象を与える結果となっている。
もう少し冷静に読者を説得する書き方が必要だと思う。


【No.33】
全応募作を通して読むと、文章全体にぎこちなさを感じた。
特に“気付き”の部分でもタイミングなどは、まだ一考すべき点が多いと思う。
『カバン』の文章スタイルを書いた目的が推測しづらいので何とも言えないが、上質の怪談話を読む経験を積んだ方がいいのではないだろうか。
通しで読むと作者のプロフィールが少々透けて見えるが、ネタについては自分自身でもっと凄いものを引き当てる可能性があるように思うので、そのあたりも含めて今後期待したい。


以上で、作者別の講評終了である。
これから著者推薦に掛かるわけだが、受付終了後にこのブログで私の推薦結果については公開したいと思う。
正直なところ、まだ最終的な結論には至っていないし、おそらくギリギリまで悩むことになるだろう。
ただし、自信と責任を持って推薦は遂行したいと思うので、応募された作者に方々には「恨みっこなし」ということで。