【0】悪戯

怖い話をし続けていると霊が寄って来るという説は定番であるが、同じようにテレビの心霊特集を見ていると何となくそのような気分になることがある。
この作品の場合、気のせいではなく実際に何らかの現象が起こっている点で、それなりの説得力を持っていると言えるだろう。
だがその肝心の現象について、もう少しリアルな描写がないと弱いのではないかという意見である。
特に希少性が高いと思われる母親の姿を目撃するくだりであるが、母親の容姿に関する情報がないため、体験者が見たものが果たして本当に母親だったのかどうかの客観的な確認が取れない(当然二人暮らしの生活の中で鍵を開けて部屋に入ってきた者を母親とみなすことは自然であるが、後にあやかしであることに気付くのだから、母親であると断定出来る確証を示しておくべきだったと思う)。
また“キッチンの電気”という言葉が突然登場するが、これも事前の説明不足のために何を言わんとするのかがもう一つわかりづらかった。
肝の部分で読者を納得させるだけの記述がしっかりと出来ていないと、どうしても怪異が弱いものに見えてしまう。
そしてもう一点、地の文と会話文との混ぜ方によって非常に読みづらい文章になってしまっている。
おそらく平山氏の怪談のフォーマットを真似ていると推測するが、会話文の比率が高く、しかも地の文と併せて説明するような構成になってしまっているために、文体がコロコロと変わりながら説明を受けるという感じになってしまい、すんなりと言葉が入ってきにくい状態という印象が強く残ってしまった。
書き方次第ではもう少し評価出来る内容だっただけに、残念。