【−3】三隣亡

いわゆる“凶宅”ネタなのであるが、名ばかりの内容となってしまっている。
体験者が実際に遭遇した怪異は、声と包丁に関するものだけであり、この長い話の中のほんの一部(長さで言えば1割程度か)だけのエピソードになってしまっている。
あとは会社の上司による伝聞ばかりが目立っており、そのことが却ってこの凶宅ネタの貧弱さを象徴していると言えるだろう。
要するに、噂先行のネタであり、体験者自身の直接的怪異遭遇だけでは非常に弱いものとなっているために、結局拍子抜けしてしまったという印象なのである。
それをさらに助長させているのが、部長の“あれ”である。
結局これもただのこけおどしとしか言いようがなく、“あれ”に関する情報も噂もなく、思わせぶりだけで終わらせてしまったようなものであり、これでは登場予告だけで実際に何も出てこなかったのも同然で、肩すかしと言うよりも騙されたという感覚である(これこそまさに“噂”によって構築された作品の悪しき典型である)。
思わせぶりの点から言えば、体験者が聞いた声“さんりんぼう”であるが、これも“三隣亡”と漢字を当てはめているものの、それを推測させるだけの根拠もなく(不動産会社だから少々はかすっているかもしれないが)、しかも現象だけで終わっているので“三隣亡”と解釈する必要があったかも理解に苦しむところである。
一応“凶宅”ネタとして外見は整えているが、中味は見合うだけの実体験もほとんどなく、また思わせぶりだけの不発エピソードだけという何ともお粗末な内容と言わざるを得ない。
これならば、包丁のエピソードだけでまとめてしまった方が、読ませる内容になっていたかもしれない。
厳しいが、全ての怪異を繋ぐキーが完全に抜け落ちている状態では、実体験と噂を並べて書くことは非常に危険であり(しかもこの作品では実体験の方が貧弱なので余計に苦しい)、アラばかりが目立ってしまう結果となってしまった。
噂と伝聞(又聞きのレベル)が中心となってしまっては、実話怪談の凄味は出てこないのである。