【+1】添い寝

鼾も呼吸や発声と関わりのある生理現象であるから、やはり個体の識別は十分可能であると思う。
そしてタイミング的にも、元夫がそばに帰ってきていると判断する方が正しい状況であるだろう(たとえ決定的証拠がなくとも、そして体験者の解釈が間違っていようとも、体験者自身が元夫が帰ってきたと感じた以上は、それが“あったること”とせねばならない)。
この作品の魅力は、そのような不思議な体験を通して、体験者自身の気持ちが微妙に変化して、結局喧嘩別れのような形であやかしを追い出してしまうところにあると言える。
その生臭い感情を怪異との絡みによって造形している点は、怪談としての面白みに通じるところであり、まさに“怪を通じて人を表す”ところの典型である。
また素晴らしいのは、現れた元夫の方の感情も、重篤の連絡と鼾という形によって凄く人間くさい次元で書き出されていると感じる点である。
何も書かれていないが、元夫が一目会いたいと切望したことは疑いのないところだが、それが叶わないと見ると魂だけが抜け出るように訪れる。
しかし愁嘆場のような展開となるかもしれない場面で、大鼾を掻いて寝ているリアクションしか出てこない。
そう考えると、鼾の怪異は何かしらオヤジの照れ隠しのように感じられないこともない。
大袈裟な言い方かもしれないが、怪異を通して泥臭い人間の業というものを受け止めてしまった次第であり、その部分を的確に描写で表現しているところでプラス評価とさせていただいた。