【−1】手

この作品にあるような怪異も、今更ながらという感じであり、数多くの類話があるパターンであることは言うまでもない。
結局そのような陳腐な怪異を読ませるレベルに引き上げるためには、書き手の筆力かあるいは怪異のディテールの特異さに負うところが大きいと思う。
しかしながら、この作品ではどちらも不発に終わっている。
ディテールで言えば“軍手”は非常に珍しいケースであるだろうし、また女性の太股を触ってくる痴漢まがいの行為もありきたりのものではないと言える。
だがそのディテールについても、書き手の誤表記と思われる部分で損をしている。
“肘から少し上あたりの部分の手”という表記であるが、これをまともに解釈すると肩から肘の二の腕が転がり落ちたということになってしまい、手首以下の部分の存在はどうなってしまったのかがわからない。
おそらく“肘から先”ということだと推測するが、このような怪異の肝部分での誤謬はかなり致命的なものになるわけであり、書き手としては慎重に書く必要性があると言える。
また恐怖を表現する言葉が“悲鳴”だけであり、これも臨場感に欠ける非常に平板な言葉になってしまっている。
小ネタといえども迫力に欠ける中味となってしまっては、評価はマイナスとせざるを得ないところである。
短い作品だからこそ密な書き方が要求されるわけであり、言葉を駆使するという面においては長編以上に神経を尖らせなければならないという意見である。