【−1】箱の中より

体験者や取材者にとって“自明の理”であるために、作品中での記述を省略して読者を混乱させるケースは結構よくあるミスとして指摘している。
この作品の場合は、これの逆バージョン、体験者にとってはきっちりと識別しなければならない事柄なので記述したが、読者にとっては“余計な情報”となって混乱してしまう表記が存在している。
“猫一匹しか入れないような箱”という情報さえあれば、そこから別の猫の前足が飛び出せば怪異とすぐに認定できるはずである。
体験者の家で複数の猫を飼っている事実は、この怪異の紹介のためには不必要である。
むしろ飛び出してきた前足と同じ種類の猫がいると書いてしまっているために、読者がすぐに怪異の内容を理解するのには不都合な記述にすらなっている。
書いてある内容から鑑みると、書き手も家で飼っている別の猫の生霊による怪異であるとも考えていないようであるので、何のための“但し書き”なのであるかさっぱり分からないのである。
結局、書き手にとっては“家にいる猫が一緒に入っていると一瞬思った”わけで書き足しているのだが、そのような事実を知らない読者にとっては、却って状況を混乱させる記述でしかないのである。
また無駄な記述であると同時に、怪異の肝部分で無用のもたつきをもたらしていると判断したため、総合的にはマイナス要素とさせていただいた。
怪異の肝をクリアにわかりやすく見せることこそが、怪談話を盛り上げる一番のファクターであるということである。