【−1】夕焼け

いろいろな工夫がなされているのだが、詰まるところ、怪異の内容が弱すぎるためにどれもが今ひとつのところで活きていないように感じる。
“夕焼けが怖い”という意外な告白から始まり、その不思議な体験を物語るのであるが、その部分の流れるような話しぶりは非常に端正で際立っていると言えるだろう。
ある意味情緒的であり、同時に光景を容易にイメージさせる言葉が並んでいる。
その展開の中で登場する怪異と夕焼けとの絡みは、はっきり言って微妙であると感じるところであり、書き手が意図したレベルよりもかなりインパクトが小さいように見えた。
そして怪異そのものがあまりにも小粒であるために、冒頭の“夕焼けが怖い”という変化球が完全に裏目に出てしまった感がある。
普通の人が感じない特殊な感情や感覚を多くの読者に納得してもらうためには、やはりそれだけの強烈な印象を残さなければならない。
結局付随する怪異そのものの弱さが、書き手の思惑を成功に導かなかったとしか言いようがない。
ただしこの怪異の内容であれば、普通の書き方をしてもほとんど取るに足らないレベルの作品ということで終わってしまうであろう。
とにかく実話怪談の場合は、文章よりも先にネタありきは鉄則(特にこういう単独作のコンペティションの場合)ということである。