【−6】気配

まさに“気配”だけで、実際の怪異が成立していない。
姿も見なければ、足音もなく、また体験者以外の証言者もいない状態で、「気配を感じて怖かった」と言われても、本当に額面通りの受け取り方しかできない。
要は超常現象としての怪異は起こっておらず、ただ体験者自身の心理状況を恐怖に覆い尽くすような雰囲気に襲われただけの話としか受け取りようがないのである。
しかもその気配が念仏を唱えている内に消えていたという結末で、怪異を主張されても納得することは無理である。
これだけでもかなり分が悪いにもかかわらず、輪を掛けて文章は完全に破綻している。
特に酷いのは“お婆さん仮称として松枝さん”という書き方、そして“既にお亡くなりになられていて現在再びこの話を聞くことはできません”という弁解。
この書き手は果たして今まで本当に怪談というジャンルの作品を読んだことがあるのだろうかというぐらいの、酷い表記である。
つまりこの作品の文章破綻は、文法的な未熟さではなく、怪談作品のフォーマットに対する無知が原因としか言いようがないのである。
“リアリティー”という言葉の意味を完全にはき違えている。
この書き手がたとえ初心者であったとしても、これはさすがに度を超した低次元と言わざるを得ないだろう。
最低評価やむなしである。