【+2】波間の大群

複数の人間が同時にあやかしを目撃したという、なかなか希少な怪異である。
やはりお盆だから現れたと解釈した方が妥当であるだろうか。
クラゲに交じって顔が浮かぶというビジュアルは非常に薄気味悪い印象が強く、数多くの顔が見えているという描写だけではなく、表情に関する記述を加えることでより一層不気味な感触を得ることが出来たのではないだろうか。
また文章の構成に関しては、あやかしを見て騒ぐ目撃者と、多くを語らない船頭とのコントラストを強調して、“お盆に帰ってくるもの”という怪異の本質を出そうとする試みがなされていると理解するのだが、如何せん、その部分での描写が全体的に薄くて平板な展開になってしまい、ただ何となくゴチャゴチャとした流れで終わってしまっている。
あやかしを見た体験者達を活写しないと、そのあたりのボリューム感は作れないだろう(無口な船頭の描写はこのぐらいで適当なのであるが、二つのコントラストといえども主になるのは目撃者の方になるだろうから、そちらを描写する分量を増やさないと、何となくバランスが悪く感じるのである)。
ネタと構成はなかなか良いと思うが、それに見合うだけの文章量が欲しいところである。
人の動きでストーリーを展開して状況の異様さを表現しようと思うと、それなりの細かい部分までの記述が必要だということである。
特にパニック状態に陥った複数の人を描く時は、あっさりとやりすぎると拍子抜けしてしまう危険性があると言える。
単純に言葉を削れば良いというわけではないし、効果を考えて必要なところを分厚くすることも内容を盛り上げるための手段であると思う。