【−1】待ち人

結論から言うと、感情の飛躍がありすぎて嘘くさく感じてしまった。
怪談というものは、単に恐怖を求めるだけのものではなく、怪異を通して人の心の動きを捉える作品でもあるわけである。
それ故に、この作品のように体験者の感情を揺さぶり、さらには読者の心に響く何かを表現することに主眼をおいた作品も、非常に意味のあるものであると思う。
ところが、この作品はあやかしである少女の霊についての表記は十分であると感じるのであるが、それに対する体験者の感情の動きが唐突すぎてついていけないのである。
内容を読めば、体験者はたったの3回しかそのあやかしを目撃していない。
その3回の目撃の中で、体験者車その霊体に対して何を思い、何を感じたのか、そしてなぜそのような感情に至ったのかの説明がほとんどないのである。
さらに言えば、なぜその霊体が体験者への態度を変化させたのかの理由が皆目わからない。
体験者と霊体の心の交流というものだから、言葉による説明や理由付けなど、そういうもので語られるようなレベルではないのかもしれない。
しかし、お互いの心が通じ合う何かを感じさせるような背景すら一切ない状況で、いきなり3度目の邂逅の際に記述される感情の高ぶりを一体どう説明すればよいのか。
お涙頂戴の展開が悪いとは決して思っていない。
だがそれに至るカギがないまま唐突に始まる“感動のフィナーレ”には全く納得がいかない。
“怪異を通して人を書く”という点において、この作品は明らかにプロセスを欠く部分が存在していると判断した。
あるいは体験者と霊体との“絆”に関する情報が欠落していると言った方が良いのだろうか。
あやかしに関する描写が美しいだけに、最後の白けぶりも激しかったということである。