【−3】黒い老紳士

一読して思ったことは“体験者の見え方が時系列的に変化している”ということである。
一言で“見える”といっても個人差があるのと同様に、一個人においても刻々と変化しているケースがある。
幼少時にはあまりはっきりと能力が開発されずにいたのが、あることがきっかけで恐ろしくリアルに見えるようになった人のケースを知っており、この作品の体験者とよく似ているという印象を持った。
推測の域を出ないが、体験者にとって“完全生身に近い霊体”を見たのは、このエピソードが初めてだったのではないだろうか。
タイトルにある“黒い老紳士”は幼少時よりたびたび見ているから、それなりに“見える”ことはあったのだと思うのだが、やはりリアルなものを初めて見れば精神的に動揺してしまうだろう。
葬儀の場としてはあまりにも非常識な行動であることは間違いないが、おそらく冷静な判断力には到底及ばないレベルでの行為であったと推測する。
そしてこの事件をきっかけに“見える”能力が開発され、その後自分と深い縁のないところでも“黒い老紳士”を目撃できるようになったとも考えられる。
しかしながら、これはあくまで個人的見解であって、作品を見る限りではそれを匂わせる記述は全くない。
結局、何の説明もないまま“あったること”ばかりで話が進められているために、体験者の言動は不可解で且つ矛盾する内容を多分に含んでしまっている。
好意的に解釈を施さなければ、おそらく内容は破綻していると言われても反論の余地はないと思う。
体験者の思いの丈は見えてくるのであるが、客観的な立場から読めば不審に思う点が多々出てきてしまい、その部分が解消されなければ胡散臭さの方が勝ってしまうと言えるだろう。
最終的には、内容的な矛盾が存在するという判断で、大幅な減点とさせていただいた。