【−5】あいつのラジオ

信憑性に多々問題がある作品である。
前日に事故死した友人と一緒に登山をしたという内容になるのだが、次の日に登山に行く予定があるのを家族が知っていながら電話一つよこさないという展開が非常に胡散臭い(“携帯もない時代”と断り書きがあるが、携帯がない時代の方が身内の知り合いの連絡先をちゃんと知っていたものである。しかも何度か母親と会ったことがあるような書きぶりなので、余計に違和感を覚えるところである)。
またどの程度の山を登ったのかが全く情報がないために、友人を置き去りにしておいても大丈夫なのかと考えてみたり、山裾の国道に朝方に辿り着いて家に帰るまでの時間が異常に長いように感じたり、遭難騒ぎになっていなかったのかといぶかしがったり、とにかく体験者の行動に対して理解に苦しむような場面が随所にあった。
そして書き方についても、山登りを始める際に友人たちのことを一言も書かずに、途中からいきなり死んでいる友人一人だけをクローズアップさせるなど、何とも御都合主義的であるとしか言いようのない進め方になっている。
結局、この話を事実として読者に納得させるだけの書き方になっておらず、体験者にとって都合のよいことだけをピックアップして、超常的な現象に対する検証もほとんど行われいないという感じでお茶を濁している(友人が持ってきたラジオはまさに霊体が運んできた物体であり、心霊学的には非常に興味深い現象なのであるが、これが実際に事故にあった時に持っていたラジオであるかの確認もなく、気付くといまだに体験者の自宅に置かれているという奇妙な扱いになっている。こういうところが“御都合主義”の極みと指弾されるところである)。
客観的な状況説明がないために、起こった出来事の信憑性に大きな疑念を抱かせることになってしまったと言えるだろう。
それに輪を掛けて軽いノリの独白体で書かれてしまっているので、説得力にも欠いてしまったという感じである。
“実話”であるならば、もっと具体的な事情を出来る限り書き込むような努力をしないといけないだろう。
何か絵空事の印象すらあったということで、厳しくマイナス評価とさせていただいた。