【0】ギシギシ

目の前にあったものが突如として全く異なる外観を呈して体験者を唖然とさせるというパターンの怪異である。
このパターンの場合、一番の妙味は気付く前後の外観のギャップをいかに見せつけるかというところにある。
そしてその気付く瞬間の切り替えをどのように言葉で表すかに掛かっている。
この作品では、この重要なポイントがほとんど機能していないと言える。
まず、最初に体験者に車がどのように見えていたのかの記述がほとんどない。
車体がギシギシと動いているのはよいのだが、車体の色であるとかそういう外観に関する表記が全くなく、さらには気付いた後の表現も“廃車”とだけであって、どのぐらいの年月を経たものであるかなどの説明がない。
車体が動いていたという事実だけに絞り込んで怪異を書いたのかもしれないが、やはり外観のギャップが明確に書いてある方が、不思議な印象を強くさせることになるだろう。
また気付きの瞬間と言える部分も、体験者目線ではないので、強烈なインパクトにはなっていないと言える(これはこういう書き方もあるので、全く評価できないというわけではない)。
必要最小限の描写はあるので絶対にマイナス評価にはならないが、あまりにも無難にまとめすぎて、怪異体験としての臨場感というものを感じにくい印象となってしまった。
少々こぢんまりとし過ぎたというところだろうか、書きようによってはもう少しインパクトのある内容になっていたと思う。