【+1】湿り気

冒頭で“サイパン”とくればほとんど最後の展開まで読めてしまうのだが、逆に定番であるために丁寧に状況を書くことで凡庸さを打ち消すことに成功していると思う。
評価できる点は、単なる気配や感触だけではなく、実際に日本兵の霊体を目撃していること、そして何よりも“湿り気による重さ”という物理的変化が明確に示されているところである。
この物理現象に着目してしっかりと検証までしているところが、この作品をより確かな怪異の記録として際立たせていると言っても間違いない。
ほんの些細な書き方ではあるが、怪異の本質を捉えていると感じるところである(日本兵の霊体の容姿を書かなかったのは“笑顔”だけを強調したかった書き手の判断だと思うのだが、これについては賛否両論というところで、一概に書かなかったのは記録漏れと指摘していいものか微妙である。ただし日本兵の霊体目撃だけでは凡庸の極みであり、他の霊体目撃談とは違って、霊体の容姿が書かれていないから怪異の本質を損なうところにまではいかないのも事実である)。
作品そのものについては、サイパンから日本兵の霊を連れて帰るというパターンそのものがあまりにも定番過ぎるため、どうしても評価を一定以上に上げることは難しいと思う。
それなりに評価できる内容というところで落ち着かせていただいた。