【+1】黒い仏像

非常に興味深い怪異現象であり、また希少な内容であると感じる。
博物館や美術館に展示されている仏像というのは信仰の対象ではなく美術鑑賞の対象という認識で見ているが、それでもなお他の美術品と比べると何か違和感というものを覚える。
そういう印象があるからこそ、この作品はかなり不気味なものを孕んでいると思うのである。
展示の際に間違いなく魂が抜かれているのだろうが、その隙間に何か邪悪なものが入り込む余地があるのではないか、しかも仏像に入るのだから余程強い念を持つ存在なのではないか、そういうことを考えながら読むと、この作品の持つインパクトの強さはなかなかのものであるだろう。
ところが、作品全体の印象は説明的な表記が多くて、悪い意味で落ち着き払った、迫力の点でもう一つ物足りないという感じになっている。
特に祖母の見たあやかしの描写が少なく、それに対して祖母の取った行動についての解説の方が目立ってしまい、肝と言える部分が非常にあっさりとした書き方で終わってしまっているように見えるのである。
最初に書いたように、仏像に潜むあやかしのイメージが想起させるものが大きいので、どうしてもこの程度の書きぶりではピンと来ないのである。
もっと邪悪で強力であることが読者にまで伝わるようでないと、読み物としての面白味に欠けるきらいがあるということである。
きちんと書けてはいるが良い意味での荒々しさが欲しかったところであり、その点で評点はあまり上がらなかったということで。