著者別短評の一

今年も短評で済ませていただくことに。
その前に、今回の同定結果を見ての感想をいくつか…
まず、今大会は得るものが非常に少なかったという印象である。私自身結局【+5】を一度も出さなかったし、高評価の基準である【+3】以上の評価も例年の半分以下ということになった。正直なことを言えば、毎年上質の怪談が集まるとは限らないし、いわゆる“不作”の年があってもおかしくないと思っている。今年はおそらくその悪い当たり年だったのではないかと感じるところである。実話である以上、天の恵みに左右されることはやむを得ないだろう。
しかし、今回の作品の不作以上に強く不満を覚えるのは、講評陣のグダグダぶりである。今年の大会をつまらなくさせてしまった元凶は、講評のレベルの低さにあるとさえ思っている。
投稿時期によって評点が大きくぶれてしまっているのが不満の原因である。【作品ランキング】を見れば明らかに一つの傾向が見えてくる。大会開始直後は昨年同様の“評点インフレ”でバンバンと高い点数が並べられているのだが、それがある時期を過渡期として3月以降急激に評点が厳しくなってしまっている。過渡期に当たるのは“鳥居”問題から“不正講評”問題が起こった頃までの時期である。個人的な印象では、初期投稿作品と終盤投稿作品では、同等レベルで15〜30点ほどの集計点のぶれがあるのではないだろうか。
講評の目標として私が掲げるのは一貫して“ぶれないこと”である。裏を返せば、それだけぶれる危険があるから戒めとしているのである。そしてぶれることを怖れる一番の理由は“講評として書き手に対して説得力が持てない”ことに尽きる。言うなれば、講評内容がなおざりにされて評点(数字)だけが勝手に一人歩きする状態、結局は“点取り競争”という怪談の本質とはおよそかけ離れた次元の争いに終始してしまうことを危惧するからである(この“拝点主義”的傾向に対する苦言は後日まとめてぶちまける予定)。
勿論初期と終盤では出てきた作品数から考えて、若干ハードルは高くなるのは例年の常である。しかしそれを割り引いたとしても、今年のぶれは酷すぎる。“傾斜配点”をしなければ、公正に数字で評価できないのではないかと思っているぐらいである。ということで、今年の著者別短評は、そのあたりの評点に関する部分を考慮しながら進めていきたいと思う。

No.1
締め切り直前に4作品を投稿。怪異の“あったること”そのものよりも、その体験者の目線や心情の方に重きを置いていると言えるような構成を持つ。ただしそれが効果的ではなく、むしろ余計な部分にまで言及されているために非常に散漫な印象を受けた。得点の低い作品ほど、体験者の心情を強調しているものになっており、また同時に怪談とは関係のない表記が目立っている。やはり怪異あってこその怪談であり、また怪異を存分に書ききってこそ体験者の心理に読者が共感を覚えるところが大きくなるはずである。“怪異を通して人を描く”という点については、まだまだ改善の余地があると言えるだろう。

No.2
初期から3月中旬まで11作品を満遍なく投稿。全体を通しての印象は“ありきたりのパターンの怪異譚が多い”ということ。20点前後の得点の作品はおおむねこのタイプに属すると言っても間違いない(『羨望』は得点インフレのために40点台を出しているが、この作品もこちらに属するだろう)。上位に来ている作品『日々是精進』と『ネバーランドの入り口は』は逆に意外性の高い内容であり、ネタさえ良いものがあればなかなかの得点が得られるだけの技量はあると認めて良いと思う。ただし評価の低い作品の『721』や『バス繋がり』を見る限りでは、まだ怪異の本質を見抜くだけの経験量が不足しているという印象もあり、まだ修練が必要といったところだろう。

No.3
2月前半に固めて、それ以降はポツポツと最終盤まで30作品を投稿。作品のパターンとして、書き手本人の体験と他者からの取材の2つの傾向があり、概して本人の体験談の方が質が高い内容となっている。初期の体験談は一人称の“語りかけ口調”となっていたが、講評での指摘を受けて以降は硬質の文体に変化しており(一部のシリーズではパターンを崩さなかったが)、柔軟な対応が出来ていると思う。ただし描写を中心とする客観的な表現については、期間を通してあまり向上したようには思えなかった。むしろ客観的な書き方をすればするほど。もう一つの特徴的傾向が目立ちだして、非常にまずい結果を生みだしている。『繋がらない点と線』や『見る人、見ない人』に如実に現れる“講釈癖”である。トータルでいうと、描写力不足と講釈好きが絡んでどうしても“青臭い”という印象が強くなってしまった。個人体験になるとある程度しっかり書けているのを考えると、状況を描写するために必要なイメージが練り込め切れていないのだと想像する。イメージを書ききる修練を積めば、もっと読み応えのある内容になるのではないだろうか。

No.4
1作だけの投稿なので、特に語ることなし。

No.5
会期中を通してほぼ満遍なく18作の投稿。作品群を見ての第一印象はネタの豊富さである。ネタの希少性で記憶に残っている作品がかなり含まれており、ネタを引き当てる力はかなりあるのではないかと思う。しかしストレートに言ってしまうと、作者本人の怪異に対するセンスはかなり問題である。『城跡』『青い炎』『鈴』『リベンジ』あたりを読むとその傾向は顕著である。メインに置かれている怪異と同等レベルの内容が無造作に切り捨てられ、その残骸だけが読者に提示されている。勿体ないというよりも、怪異を記録するという点においてどのような感覚でいるのか正直信じられないと思うところがある。少々長くなったとしても、まず“あったること”を細大漏らさず正確に記述することを心掛ける必要があるだろう。“あったること”の羅列だけで十分読ませる内容なのだから。