著者別短評の三

著者推奨の締め切りが迫っているので、今回はお小言はパスということで、全力で短評を書くことに。

No.9
2月前半に過半数を、あとは満遍なく17作を投稿。重量級の作品に一日の長があるという印象である。問題があったが『鳥居の倒れていた土地』は今大会屈指の作品であったし、『地獄耳』『染舌』あたりの人間の業の深さを感じさせる“厭系怪談”は相当な迫力があったと言えるだろう。怪異のインパクトの強烈さでは群を抜く内容である。ただし評価の低かった『あの日のまま』や『ふたつの想い』『五分の魂』は純粋な怪異を含んでいないと判断され、苦しい展開となっている(このあたりの判断はセンスの悪さというよりも、見込みの甘さ故の失敗であると感じる)。全体的には質のムラがあるという指摘が出来るだろう。はっきり言えば、良い作品と駄目な作品にスッパリと割れてしまい、いわゆるそこそこの出来と呼べるものが少ないのである。今後の課題になると言えるだろう。

No.10
『晶働』以外は全て2月に中に登場させ34作の投稿。投稿数以外の評価対象についてトップを獲得しており、ある意味今大会の暫定王者であり、それだけの実力を持っている。傾向としては、良くも悪くも読者の存在を意識した作りに徹していると言える。ドラマチックな展開で、怪異の肝に収斂させていく書きぶりは非常に自信にあふれており、読み手も安心して読むことが出来る。しかしその反面、あまりにも劇的であるためにあざとさを感じ、また“作り物”ではないかという胡散臭い部分も見え隠れしてしまうことも事実である。ただそのあたりの案配を書き手自身が把握しており、微妙な一線を外れないようにしているようにも感じる。作品群全体の印象としては一昔前の実話怪談の書きぶり(ただしどぎつい脚色で事実をねじ曲げている内容を持つという意味ではない)であり、まとめて読むと醸し出される雰囲気によって好き嫌いが生じる可能性があると想像する。

No.11
3月下旬に3作の投稿。とんでもない傑作ネタを残骸にしてしまうほど削り倒してみたり、ありきたりのネタをこれでもかと書き継いでみたり、とにかく怪異の本質を無視したような書きぶりである。文章表現云々以前に、怪異の本質を掴み、それに見合うだけの文章で書くことを会得しないと、認められることは決してないだろう。精進あるのみ。

No.12
1作のみの投稿につき、特に語ることなし。

No.13
3月に3作を投稿。作品の印象として、体験者の目から眺めた怪異という印象が強く残った。おそらく書き手自身が取材内容を再構築する際に、体験者の主観を多く取り入れすぎてしまったために、何か“あったること”として欠けている部分があるような気分にさせられるのである。全体を俯瞰して客観的事実をまとめるという姿勢で書けば、より良い作品になるのではないかと思ったりもする(『家具調テレビ』はその傾向にあったと言える)。まだ3作だけなので、どのように進化するかは判らないので断言は出来ないが。

No.14
2月後半頃から活発に25作を投稿。不思議系掌編に面白い作品が集まっている。投稿時期と掌編であるが故に得点があまり伸びない恨みはあるが、ツボにはまると意外と興味深い内容のものも少なくない。ただし基本的に恐怖を先行させるべき内容にもかかわらず、不思議系へ引っ張っていこうとしたために失敗していると思われるものがいくつかある(『天井埋込型照明』『出る部屋』『口だけ』『気配り』『出張理容』など)。また内容の削り方が誤ったためにおかしな話になってしまったものもある(『祈り』『真夜中の鳴き声』『墓参り』など)。恐怖よりも不思議を前面に押し出そうという書き手の意図がやや空回りしている作品の方が目立ってしまっている。どうしても“怖くない幽霊話”という印象が残ってしまうため、全体的な評価が低くなってしまうのはやむを得ないところかもしれない。