【+4】あかいはこ

死亡事故現場で遺体を目撃してしまったために、霊に執拗に追い掛けられるという話は多いが、現場に落ちていたのと同じ箱がつきまとうという話は初見である。
しかもなぜ箱がつきまとうかの理由となるような記述が、体験者の事故目撃の場面でしっかりと書かれており、書き手の伏線の張り方がなかなか心憎い(その箱の部分だけが情景描写として克明に書かれているわけではないのが、巧妙さを感じさせる)。
そして箱が連続して体験者の元に出現する場面の畳みかけ方も巧みであり、飽きさせるどころか、ただの箱に禍々しい性格を植えつけることに成功している(屋根の上に出てくるなど、もはや降参するしかない)。
やはり全体的な描写力に長けており、安定した書き方が出来ているところが高く評価できるわけである。
最後の後日談である火事のエピソードは、この高い筆力だからこそプラス効果をもたらしていると言えるだろう。
体験者のセリフの数が多いのが気になるところだが、おおむねは“あったること”としての描写に徹しているからこそ、書き手自身が偏りのない立ち位置であることを読者が無意識に感じており、だからこそこのような曖昧な判断に委ねざるを得ない“事実”を最後に書いてもあざとさが見えてこないのである。
おそらく主観性の高い書き方とか、展開がまどろっこしい書き方であったならば、この部分は完全に“蛇足”のレベルとして酷評されていたと想像できる。
ネタの希少性と、書き手の筆力の高さを評価して、良作としておきたい。