【+1】こわれ屋

すごくいい味の出ている作品なのであるが、怪異についての表記に問題があるために損をしていると言える。
話の内容を読む限りでは、かなり昔の話(昭和前半以前と推測するが)であり、体験者自身もかなり高齢の方ではないかと思ったりする。
また漢方の世界では、ここに出てくる人骨とか闇ルートでないと手に入らない品物を扱うという裏稼業的な雰囲気を持っている部分があり、その生々しい現場での怪異という点では高く評価しても良いだろう。
そういう環境の希少性もさることながら、怪異そのものも強烈である。
ところが、その怪異そのものを描写している部分で問題が生じている。
体験者が語る“歌川国芳の浮世絵”という表記があやかしの描写の中心となってしまっており、リアルな動きのあるあやかしの表現が出来ていない。
この体験者の指している浮世絵こそが後の“がしゃどくろ”のモデルであることは言うまでもなく、逆にそれに対する知識のある人間であればその姿を想起して読んでしまうことになる。
以前から指弾している“既存のキャラクターに依存した特徴描写”であり、これが出た段階でかなりのマイナス評価とさせていただいた(この言葉以外にも多量の描写が存在していれば相殺されるが、この言葉が最もインスピレーションを掻き立てるものになっているようではいけない)。
途中で逃亡してしまったという点はやむを得ないが、それでもこの部分はいただけない。
ただそれでもプラスに評価したくなるだけの魅力のある内容であるということは、明確に書いておきたいと思う。