【−1】そこには無い

怪異そのものは非常に小粒でありきたりなレベルのものであり、これ自体は可もなく不可もなくというところで落ち着く。
ところが、言わずもがなの情報を最後に書いてしまったために、マイナス評価とさせていただいた。
上流の身投げと自転車に乗るあやかしとを結びつけるにはあまりにもシチュエーションが違いすぎるし、客観的に考えても、よほど決定的な関連性の根拠がそこになければ書かないのが普通である。
たとえそれが体験者自身の積極的な意見や観測であったとしても、客観的に的を射た内容でないと判断すれば外すのが、書き手の役目というものである。
この作品の場合は、さらに間の悪いことに、身投げの事実の前にはっきりと“かつて橋のあった場所”という事実が出ているのであるので、余計に蛇足感が強くなった。
自転車のあやかしの様子からすれば、それが過去にあった橋を渡っている記憶によって行動していることが一目瞭然であり、それ以外の原因を提示することすら躊躇うほどピタリとしているからである。
結局のところ、この不用意な付け足しが体験者の主観の強要とみなされ、せっかくの流れを堰き止めてしまったと言えるだろう。
このシンプルで明快な展開を持つ怪異で蛇足感のある解釈を施せば、当然評価を大きく下げざるを得ない。
体験者の言だから全てが正解ではないし、言われたことの全てを書き出す必要性もない。
怪異を再構成する能力とは、体験者の主観を出来る限り客観的なものに仕立て直す力と言っても間違いないところであり、この作品の場合、身投げの事実を書いた部分に書き手のセンスを疑うことになってしまったと言えるだろう。