【+4】天から地へ 地から天へ

いわゆる“神霊系”の奇談であるが、ディテールの面で評価できる部分が多々あるため、高く評価させていただいた。
まず言葉が非常に具体的であり、体験者自身の感触というものが理解しやすかった。
正直なことを言えば、そこに書かれている体験者の感触をイメージするのはかなり難しいと感じるのであるが、しかしながら体験者がどれだけ冷静にその状況を感じ取っているかは鮮明に理解できた。
書かれている言葉はおそらく書き手によって見事に整理されていると推測するが、それでも体験者自身がそれに近い言葉をかなり精確に語っていることは間違いないと思うし、それだからこそ“生きた言葉”という印象を強く感じられるのだと思う。
体験者だけにしか見えない事実を書く状況というのは、怪異譚を書く上においてはままある事柄であるが、そこに客観性をもたらすことが出来るのは“具体的な言葉”に負うところが大きいことを、この作品を雄弁に物語っていると言えるだろう。
さらに驚くべき内容は、最後の体験談である。
具体的な場所はややぼかしてあるが、該当すると思しきポイント(高山美術館とか絵馬殿で検索すれば場所は簡単に判る)を地図で確かめると、どう考えても高山市の中心部あるいは観光地のそばという、物寂しい場所とは無縁の場所での出来事であると判断した。
そしてここまでは体験者のみが見える、主観的な事実だけが書かれていたのだが、この体験で初めて“先に行った者よりも早く目的地に着く”という客観的事実が付加されることになる(何らかの方法で先回りできる可能性は否定できないが、“リーフレットを頼り”にする観光客では至難の業だろう)。
最後のエピソードで具体的な客観的事実を打ち出してくる展開はまさに心憎いの一言であり、書き手のセンスの高さをうかがい知ることが出来る。
下手をすると体験者の自分語りだけで終わってしまいそうになる体験談を誰もが納得できるだけの内容に仕上げた書き手の力を評価したいと思うし、また冷静な態度で自分の体験する怪異を見つめている体験者にも敬意を表したいと思う。
非常に稀有でありながら詳細な体験記録と断言して良い内容である。