【−3】しつこい

体験者があやかしの存在を認識する瞬間は、まさに怪談のクライマックスと言っても間違いないところであり、この部分の出来如何で評価が大きく変わるケースすらあるほどである。
この作品は、それほど重要な“気付き”の部分で大きな失策を犯してしまっている。
不審な人物の存在に気付くのはかなり早い段階なのであるが、そこからその不審人物は体験者に対して瞬間的に近づき、さらに肩の上にのしかかっていく。
このような異常事態にもかかわらず、体験者はまだそれを“あやかし”であると認知していない。
そして鏡を見て負ぶさっている相手が上半身だけであることを認めて、ようやく“生きている人間ではない”ということに気付くのである。
この鈍さは尋常ではないし、文面から読む限りでも明らかに霊体験をし尽くした挙げ句に“人じゃない”と気付かれても、失笑するしかない。
とにかく想像を絶する間の悪さとしか評しようがない。
もしかすると体験者がしたたかに酔っぱらっていたために、判断能力が格段に落ちていて、通常の反応では考えられないような認識になっていたのかもしれない。
しかしこの反応の遅さでは完全に酩酊状態であり、今度は逆に、体験者の霊体験そのものの信憑性に傷が付いてしまいかねない(それこそ霊であると気付いた瞬間に“酔いが一気に醒めた”としか受け止められない)。
結局のところ、分かったような分からないような曖昧な展開でお茶を濁して終わってしまったと言わざるを得ないだろう。
酔うと“見える”という特異体質のケースを書き表そうとしたのだと推測するが、構成そのものを考えないと“酩酊状態=信憑性の欠落”の汚名がつきまとうばかりである。
“気付き”のタイミングの悪さは致命的であり、これならば酔っている状態での心霊体験ということで最初から通した方がまだマシな結果になっていたという判断である。
何だか書き手自身が、このシチュエーションをもてあまして書き損じてしまったという感が強い。