【0】直線道路

ある意味“引き算の怪談”の極限にまで挑戦したような作品である。
ただし全体的には、それが上手く作用しなかったという印象が残った。
一番気になったのは、体験者とタクシーとの距離が明確ではなかったこと。
移動するものの怪異の場合、どうしても速さ・時間・距離に関する情報の明記がないと、おおよその感覚が掴めないためにリアルな追体験がしづらくて、信憑性にも問題が生じてしまうことになる。
この作品の場合、タクシーと一緒にあったバイクが追い抜いていくわけだが、それでも距離や時間に関する情報が一切ないために、タクシーが追い抜かないことに気付いて振り向くまでのタイムラグの部分でやはり首を傾げてしまうことになる。
またクラクションが鳴ったことと宅配ピザ屋のリアクションがすぐに合致しなかったところも、話をややこしくしてしまっていると言える。
特に宅配の男の説明で“道にでも迷ったのかバイクを停止させてキョロキョロしている”という表記があったために、クラクション(これがタクシーのものであったと理解するのにもかなり時間を要した)の書かれている意味がすぐにピンと来なかった。
このあたりは舌足らずというよりも、引き算をした結果、読み手に通常以上の想像を要求したためにすぐに状況把握させることが出来なかったと言えるだろう(状況理解のための最低限度のパーツは全て揃っているのだが、それを繋ぐのに相当な労力が必要となるわけである)。
再読すればするほど実に精妙な“引き算”を施していると感心するのであるが、ただ読み手に考えて繋げさせる部分が大きくて、サクサクと理解させるべきシチュエーションまで掴みづらいものにしたのは、果たして読み手にとって利となるものであったかは甚だ疑問の余地が残るところである。
トータルとしてはギリギリマイナス評価にしなくても良いというレベル、これ以上解りにくい部分があれば、やはり“引き算の怪談”としての技巧は評価できても、読み手の存在する作品としては不適格となっていたと思う。