【+2】我が家

怪異の内容から見ると、憑依現象というよりはむしろ“残留思念”と波長が合ってしまって、心的追体験をしてしまったと見た方が良いようである。
憑依されてしまえば、その間は全く本人の人格(意識)がなくなってしまうために自分の言動に関する記憶が残らないわけで、このように明確に自分自身の行動を押さえているという点で、憑依よりはゆるやかな人格支配である“他者の残留思念の侵入”現象と見た次第である。
霊能力者が心霊スポットで霊を呼び出して状況を聞き出す行為と同じことを、霊能力のないと思われる体験者が偶然体験してしまったというように解釈すればよいだろう(当然コントロールできないので、結局追体験をさせられて酷い目に遭うことになるのだが)。
怪異の内容をそのように捉えると、非常に残念に思うところがある。
この体験自体かなり希少性の高いものであると判断するのであるが、この体験の最も明らかにして欲しい部分、即ち体験者の心理や心情の展開をもっと詳細に書くべきではなかったかと思うのである。
おそらく体験者は唐突に侵入してきた別の観念に対して驚き、そして抵抗したことは間違いない。
その時の感情や心理状態を細かく書けば書くほど、この作品は凄まじい内容になっていたのではないだろうか。
体験者の主観を中心に書くと怪異の内容の信憑性に傷が付くと普段は個人的主張をおこなっているが、この作品における怪異は、体験者の主観の中で並行して展開されている以上、逆に主観抜きで語られると却って物足りなさを覚えると言える。
その部分に厚みを持たせれば(要するに心理描写をもっと記述する方向で書けば)、かなりすごい作品として評価されたのではないかと思う。
ただ現状のままでも、構成や展開の工夫で非常に“読ませる”内容になっているし、少々小説っぽい部分もあるが、ディテールがしっかりしているために“創作臭さ”はほとんど感じることはなかった。
実話怪談としてはやや異色の書きぶりであるが、それが好印象に繋がった作品という評価で、かなりプラス評点とさせていただいた。