【−1】生えてる

背中に手が生えているという怪異であったならば、取りたてて書くほどの内容ではないと思うのであるが、その手に菊の花束が握られているとなれば、かなり希少性の高いものであると言えるだろう。
それ故に小ネタではあるものの、インパクトの強い怪異であると言えるし、読み手を多少なりとも驚かせるだけの一発勝負的なニュアンスのある内容である。
ところが、書き方が非常にまずい。
話の前半部分で怪異を明らかにして、後半に体験者のリアクションを書いているのだが、そのリアクションがぼんやりとしたものになっているために、怪異のインパクトが完全に殺されてしまっているのである。
要するに、怪異に対して姉弟で「あれなんだろう?」と不思議がられても怪異の衝撃を緩和するだけで、怪異の奥行きとか深みを出す効果はないだろう。
というよりも、インパクトで勝負すべき怪異の内容に対して体験者の感情で余韻を持たせても、ほとんど意味がないとしか言いようがないし、その感情の発露である会話の内容が捻りもなくあまりにも凡庸なリアクションだから、ただ単に間の抜けた会話にしか見えない。
これではせっかくの怪異の強烈さが全く薄れてしまう。
一番最後の文で、背中から生えた手が白菊の束を持っていることを記述するならば、怪異に対する読み手の緊張感も維持できるし、インパクトを損なうことなく与えることに成功していたと思う。
怪異の本質を把握できていないと批判を受けてもやむを得ない書き方であり、小粒とはいえ二段構えの怪異というなかなか興味深い内容を活かしきれなかった点は、書き手の失策と言うしかない。
書き方次第では十分プラス評価を受けても良い内容だけに、非常に残念なことである。