『合唱コンクール』

音にまつわる怪異であり、その体験者がその方面のプロであるとなれば、非常に興味深い怪異体験になりそうだと思って読んでみたが、結論から言うと、逆効果としか言いようなレベルで終わってしまっている。
ある専門分野に精通している人間が、その特殊な問題にまつわる怪異に遭遇するということは、それだけで信憑性の部分で絶大な説得力を持つことは明らかである。例えばプロのカメラマンが撮った心霊写真と言えば、それだけでどれだけのインパクトがあるか計り知れない。ところが、この作品では特定の場所にビデオカメラを向けるとマイクにノイズが入るという怪異が起こっているのであるが、この体験者である専門家がその現象に対してプロらしい検証を全くおこなっていないのである。ノイズの発生に対して機材の調子を確かめたという記述もない。またノイズの解消が、ビデオカメラで写す方向を変えただけという、素人でも出来るような対応である。専門家としての技術的な対応はほとんどなく、結局予備機材を使用して、何とかその場をしのいだというところだけがプロらしいアイデアだと思う部分である。言うならば、専門知識を駆使して怪現象の起こる可能性を追究したわけでもなく、結局撮影が不可能になるほどの強烈な怪異でもなかったという印象だけが残ってしまった。
さらに言えば、この問題のノイズであるが、一体どれだけの現象だったのかが全く書かれておらず、本当に超常的な怪異とみなせるだけの音であったのかすら、実は判然としないのである。つまり書かれている内容では、体験者が変な音に過剰に反応しただけと言われてもおかしくないのである。その体験者がたまたまプロだっただけであり、その専門家の肩書きは全く展開の中で活かされておらず、却ってこけおどしに近いものを感じざるを得なかった。尋常ならざるノイズであるならば、具体的にその内容を示さなければ、プロがびっくりしてもそれだけで怪異であると言うことは無理があるだろう。
結局のところ、起こっている現象そのものを怪異と認めるだけの物証が書かれておらず、この記述だけで怪異であるとは確認が取れない。よって、この作品を怪談とみなすことは極めて困難であり、非常に厳しい評価とさせていただいた。
【−6】