『少年自然の家』

一言でいってしまえば、体験談から“怪談”になり損なった話である。
非常に詳細に情報が書かれているのであるが、しかし、その情報が時系列的に並べられているだけなので、怪異に至るまでに無駄な雑談程度の内容が山積してしまって、肝心の怪異に至るまでにうんざりとしてしまう。しかも怪異の内容が大したものではないから、完全に話の中に埋もれてしまっている。それ故に体験談としてはまだしも、書き手(ここでは体験者と同一人物であるが)が交通整理をして作り上げる“怪談”とは似ても似つかないレベルの話で終わってしまっている。とにかく情報がとっちらかってしまっていて、読むに耐えないという印象しか残らなかった。
肝心の怪異であるが、これも正直、本当の超常現象であると言えるかどうか微妙、というよりも書きぶりからただの錯覚程度の内容であると感じた。
壁を引っ掻くような音であるが、日頃寝起きしている部屋で初めて起こったのであれば怪異である可能性が高いが、初めて泊まった部屋の場合であれば、それが怪異であると読み手に納得させるにはもっと検証が必要であるだろう。しかも断続的になっているにもかかわらず怖がらずに寝てしまう場面があるから、余計に異音であるという認識は薄れてしまった。
さらに教師が3人しかいない部屋で4人点呼するという内容であるが、これも教師の返答がないままで終わらせているために、ただの数え間違い(頭数ではなく、ベッドの数を数えた可能性が大きい)ではないかという疑念が残る。書き手とすれば余韻を残すために教師の返答をカットしたつもりなのだろうが、そこまでの流れで絶対的に怪異であるという物証が提示されていないために、“実話”としては全く物足りない終わり方になってしまっている。これが創作であれば、当然「ちゃんと4人いたはずだ」という教師の答えが待ち受けているはずだが、“実話”は確実にその答えが出てくるだけの内容があって初めて余韻が成立する。このあたりの処理方法の手際の悪さが、さらにこの作品の信憑性を奪っていると断言できるだろう(はっきり言えば“学校の怪談”テイストの都市伝説の雰囲気が勝ってしまっていると言える)。
実際に怪異であったかもしれない確率がわずかにあるので最低評価とはしないが、相当粗悪なレベルの作品であるだろう。厳しいが、そういう判断にならざるを得ない。
【−5】