『人形劇の準備』

怪異そのもののインパクトで言えば、“人形怪談”の中でもかなり強烈な部類に入ると思う。ほとんど廃材に近いものを寄せ集めて作ったであろう人形が生命を持ち、あまつさえ凶暴な振る舞いをするという展開は、人形師が魂を込めたものが生命を宿す内容や、所有者の念が籠もって怪を為す話とは異なる恐怖を感じるところが大である。この邪悪な念の出自が分からない、そして人形そのものが行方知れずになってしまったからには、また別の形でこのような悪辣な怪異を引き起こすだろうという予感が先走る。しかも怪異の内容が少女を陵辱するという陰湿さを持っており、その分だけ嫌な怪談話になっている。“人形怪談”の範疇としては、かなり異色の怪異であると言えるだろう。
しかし、このきついネタにもかかわらず、文章がたどたどしいために相当損をしている。一番強く思うのは、文が全体的に非常に説明的になってしまっており、滑らかな読み心地になれないのが致命的である。特に、説明調の文によく見られる、文を繋いで一つのセンテンスにしてしまう傾向が強いため、何となくダラダラと動きが展開しているように感じてしまうのである。一文をもっと適当な短さでカットして、キビキビとした調子にするだけでも、多少は読みづらさは解消できたように思う。さらに言えば、やはり描写的な文で畳みかけるべきだろう。描写部分はあるが、その合間に丁寧に説明的な表現が挟み込まれているのも、スムーズな読み方に水を差している。描写文だけでも十分ストーリーを拾っていけると思うし、むしろ読み手が次へ次へと引っ張り込まれていくような書き方の方が、怪異の内容には合っていたような気がする。
いずれにせよ、せっかくの怪異のネタだが、堅苦しい文の雰囲気に埋もれてしまったと言わざるを得ない。ネタの強烈さは十分評価できるだろう。
【+2】