『南の島』

怪談のカテゴリーとしては“金縛り”ネタであり、あまりパッとしないのであるが、ただシチュエーションの特殊性においてはかなりの内容であると思う。
まず沖縄地方の習俗が絡む怪異である点で、特殊であるということ。特定のエリアでの習俗が絡むと、怪異譚としての印象もかなり変わってくる。ここでは客人のために飼っている山羊を殺す風習から怪異が始まっているわけで、ここにローカル色という独特の味付けが加わることで、一種毛色の違うニュアンスが生まれてくる。また、この作品では、その怪異の後で家の主人が見せた態度が沖縄らしい(と地元以外の人間が持つイメージ)と思うところにまで繋がっていると言えるだろう。少々紋切り型のイメージではあるが、“らしさ”を演出することで、他の土地では味わうことが出来ない独特の印象がここでも発揮されている。同じ菓子でも地方色が明確に出ているものを見ると、なにかしら付加価値が出てくるのと同じ感覚であるだろう。
そして特筆すべきは、山羊の幽霊が出てくるところである。動物が霊体として出現する話もいろいろあるが、山羊は希少種である(個人的には過去に一度だけ見聞しただけである)。しかもこの山羊が“風習”に従って殺され、体験者の許に現れる必然性が存在している点も見逃せない。さらに言えば、この霊体の動きについて非常に詳細な記述がある点も、怪異の記録としてかなりしっかりした内容であると思う。
怪異の内容が非常に特殊であり、そのディテールに関しても水準以上の詳細さを持って書かれているということで、それなりに評価出来る作品である。さらに加えるならば、この南の島の雰囲気(イメージ)が上手く取り入れられているところも好印象である。怪異のレベルとしては小粒でありきたりな展開であるが、それ以上に地方色の魅力は捨てがたいということである。
【+1】