『コショウ缶』

「減らないのは修正液だけじゃなかったんだ…」というのが全ての感想である。怪異についてはこれ以上でもこれ以下でもない評価であり、30年という年月の長さだけがやや評価を上げているところである。しかし30年以上使っていて変と感じないのかというか、食べ物だからもう少し前に奇異を感じて欲しいという気もしないわけではない。また密封缶の蓋を開けたらコショウが出なくなったという結末も、実に平凡すぎるぐらい平凡なオチである。ただしこれがベストな結末であるとも思うところである。
書きぶりであるが、これも淡々としており、もう少しコミカルな書き方もあったのではないかと思うのだが、これでも良いかもしれないと感じる次第。結局のところ、可もなく不可もなくというレベルに終始しており、言葉が足りずに破綻するわけでもなく、饒舌すぎて墓穴を掘るということもない。とにかくつとめて冷静に情報を並べて、過不足のない展開であると言える(むしろ、缶の大きさも書き、その後に買い換えた同サイズの缶では半年ぐらいしかもたなかったことまで、実に隅々まで隙がないという印象が強い)。
正直なところ、インパクトのある怪異でもなく、ただ怪異であることを否定出来ない事実であることはしっかりと書かれており、実に地味な怪談であるだろう。しかし、どうしても首を傾げたくなるような話であり、“ほっこり”という言葉がよく似合う、何とも良い味を出している作品であることは間違いない。“作品集の中にあって初めてその真価が現れるタイプ”の作品であると言えるだろう。単体の作品としては可もなく不可もなくではあるが。
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