『神様、ヘルプ!!』

怪異としてはやや小粒ではあるが、怪異のメインである部分のディテールをしっかり書いているので、なかなか興味深い内容であると感じた。壁側から殴り書きされた「おキろ」という文字。一番目を引くのは“書いたばかりの文字の上から書かれている”という記述である。このあたりが、怪異を怪異たらしめる鍵になっている。こういうディテールをきちんと書くことは、怪異の現実感を明確にするだけでなく、体験者の怪異遭遇時に冷静であった(単なる妄想ではない)ことも示すことになる。一定の評価が出来るところである。
しかし問題の部分もある。まず後頭部の一撃であるが、痛みを感じた以上は何らかの物理的な力が加わったのだと推測出来るが、果たして素手で殴られたのか、あるいは物ではたかれたのか、その辺りの感触というものが書かれていないために、非常に曖昧な内容になっている(邪推すれば、覚醒してからの痛みについての記述はないために、寝ぼけていてそういう感覚に陥っただけなのではという見方も出来る)。ノートに書かれた文字についてはディテールがしっかりとしているだけに、違和感が残るレベルであるだろう。
さらにタイトルも含めてこの現象を神様と結びつけているが、これも果たして正しい判断であったのかという疑問が残る。体験者(書き手)とすれば、部屋の片付けをしたお礼に神様が起こしてくれた(少々荒っぽいが、神様であればこういうやり方も有りだと思う)という解釈で書いたのだろうが、ややミスリードに近いものを感じてしまう。むしろ誰の仕業か分からない方が、却って不思議感が強かったのではないだろうか。
恐怖感を感じさせない、むしろ面白おかしくあっさりと書いて成功しているとは思うが、怪異譚としては少々アラがあるという意見である。可もなく不可もなくという評価である。
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