『ポルターガイスト』

書いてある内容を読むと、ポルターガイストの典型的現象であると認めることが出来る。しかもかなり強烈な部類であり、これ自体は非常に希少な類例であるといって間違いない。
しかし、その現象の表記部分、そして全体の展開があまりにもお粗末である。ポルターガイストそのものの表記であるが、オノマトペ(擬音)が現象表現の中心に据え置かれてしまっているために、具象性に欠けるという意見である。オノマトペは文字による音響効果としては絶大なので、用いることは吝かではない。だが、これだけで状況の全てを言い表すことは不可能である。もっと具体的な動きを表す描写があって初めて、現象がどのようなものであったかを読み手に伝えることが出来るのである。オノマトペはあくまで感情に訴える言葉であって、状況把握の補助的役割を持つ言葉であると認識すべきである。この作品のような感じで使われると、状況が逼迫しているのは解るが、どのように物が動き音がしているかを明確に読み取ることは難しい。具象的な言葉による描写があってこそ、怪異の現象の全容が顕わになるということである。
そして展開の問題であるが、結局、怪異のクライマックスがどこに置かれているかがはっきりしないような印象を持った。要するに、複数のポルターガイスト現象が起こっているが、それが時系列的に並べられているだけで、恐怖の絶頂とシンクロしていないように見えるのである。内容から言えば、体験者が背中を叩かれている場面が、直接的な危害を加えられている点で、絶対的恐怖を感じているはずである。ところがその部分は拍子抜けするほど簡単に触れられてただけで終わってしまっている。これでは却って怪異の強烈さが薄れるだけであり、書き手の恐怖に対する感覚もずれているのではないかという疑問も出てくる。
さらに言えば、ポルターガイスト現象の“直後”に起こった火事のエピソードである。この“直後”がどの程度のタイムラグであるかがはっきりしないため、取って付けたような印象になってしまっている。当日とか翌日であれば非常に禍々しいものを感じさせるが、数日後であればどうしても偶然の域を出ない雰囲気になる。この表記を曖昧にしているのも、センスとしてどうかと思う。おそらく死んだ犬の惨たらしい様子がポルターガイストと結びついて離れないのだと推測するが、客観的な因果関係をはっきりさせないと、単なるこけおどしに近い内容にしか見えない。
直接の体験記としてはこんな感じでも良いかもしれないが、怪談という作品にまでは昇華し切れていないと言ってよいだろう。問題点が大きいため、せっかくの希少な体験談であるが、マイナス評価とさせていただいた。
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