『信じない』

起こっている怪異は様々であり、それなりに何かを臭わせる内容であると思う。土地にまつわる噂、室内で起こった叩音現象やポルターガイスト現象、隣人の自殺、そして老婆の現れる夢と家族の一致。これだけの怪異が頻発すれば、何らかの障りがあると感じても何ら不思議はないのであるが、読んでいて畳みかけるような印象は極めて薄いのである。
結論から言ってしまうと、これらの怪異に連続性や因果性を感じることが少ないのである。これは怪異そのもののカテゴリーが違うというよりは、むしろ書き方に大いに問題があるという意見である。つまり、様々な怪異が起こっていて、それらの怪異の原因はおそらく一つに集約するだろうという予測が何となくあるわけだが、それに反するように、怪異がバラバラに起こっているように見えるのである。例えば、土地にまつわる噂が最初に提示されるが、それ以降その話題は一切出てこない。ポルターガイスト現象についても簡単に触れられているだけで、その後も発生したのかすら分からずじまいになっている。さらには隣人の自殺も思わせぶりに取り上げられているが、他の怪異との関連性は不明。そして最後の締めくくりである老婆の夢についても、あまりにも唐突すぎて、引っ越しに頑なに否定的だった父親がなぜ意を翻したのかすら、憶測でしか理解が及ばない。要するに、怪異の全てがその場限りの現象としてのみ語られるだけで、互いに関連し合うような示唆すら見当たらないのである。これではいくら怪異が並べられていても、恐怖感の蓄積はほとんどなく、却って数が多い分だけ怖さは薄れてしまうことになるだろう。(この作品で一番怪異が際立ったと思うのは、体験者が母親と同じ叩音現象に見舞われる場面だろう。何故なら、そこには連続性のある怪異が表現されているからである)
一連の怪異に関連性を付けようとするならば、まず自室だけの怪異にとどめ、さらに老婆の夢のエピソードをもっと分厚くすべきだろう(少なくとも落語のオチのような形で、父親の一言で止めてしまうような書き方はやめておくべきである。もしこのオチが最優先であれば、ここまでダラダラと怪異を書く必要はないし、書けば書くほどつまらなくなっているように思う)。怪異は起こっているが、それを活かす書き方にほとんどなっていないと感じるところが大きいので、評点はかなり厳しめにさせていただいた。
【−3】