『ちゃんかちゃんか』

不思議系の怪異であるが、とにかく謎の多いあやかしである。霊体であるのか妖怪であるのかも不明であるし、何を目的にしているのかも実際には分からない(体験者の推測では神社へ向かっているのだが、それもあくまで“祭り”のイメージから来る憶測に近いもののように感じる)。その様態について書き手が要領よく描写しているのでわかりやすい分だけ、却って不思議ぶりが浮き上がってきているようでもある。
あやかしについては明瞭なのであるが、ただそれ以外の表記については微妙な印象を受ける。特に疑問に思うところがあるのは、このあやかしと神社との関連性を強調しているという点である。体験者自身は結びつけて語っているのであるが、果たしてそれが正しいのかどうか。それを感じさせるのは、狐の面を被っているにもかかわらず、稲荷社ではない神社(“猿”に関係あるのだからおそらく“日吉社”か)へ向かっているという部分である。もし仮にこの表記がなければかなり納得がいくのであるが、個人的な意見としてはどうも据わりが悪いわけである。むしろあやかしと神社を結びつけるためには、意図的に“猿”という言葉を抜いた方が正解だったように思う。また「ちゃんかちゃんか」というお囃子についての情報が少なく、これも神社と関係があったのかどうなのかの言及もないため、逆にあやかしと神社との関連性が薄いのではないかという疑念も残った。正直なところ、神社にこだわっている割にはディテール部分でそれを裏切るような記述が目立っているのは、不可解に思うところであった。
さらに言うと、このあやかしが家々を突き抜けて進んでいく箇所についても、雰囲気は分かるが、どの方向へ向かっているのか、本当に真っ直ぐに突き進んでいるのかが分かりづらかった。このあたりも“神社へ向かっている”という印象を弱くする要因になっているように感じるところであり、もう少し整理して書くべきだったのではと思う。
けったいな怪異ということで希少性もあり、一応プラス評価とさせていただいた。
【+1】