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第一印象は「実話」と「実話怪談」との境界線上にある作品、別の言い方をすれば「純然たる“あったること”だけを記した」作品である。
まさに体験者の話の要点だけをしっかりとまとめ上げたという感じである。
だから「怪談話」としての捻りや構成の妙と言ったものは一切感じられない。
ただひたすら“あったること”だけを時系列に沿って書いている印象しか残らなかった。
だがそれは作者の意図するところのようにも思える。
特に“まとめ上げる”作業の中で作者は文章を練り上げ、読みやすい形式に仕上げたと言っていいだろう。
またその雰囲気がこの作品の怪異の内容に合致している。
体験者が恐怖を感じながら4年間も怪異の起こる部屋に住み続けるというかなり不自然なシチュエーションが、この書き方だから無理なく読むことができたと思う。
もし作者が技巧を凝らしたならば、「嘘臭い」という印象が強まっていただろう。
怪異であるが、これはまさに“霊道”の体験談である。
「顔が見えない」という怪異についても霊の目撃ではよくあることであり、ある意味リアルな体験の裏付けにもなっていると思う。
作品全体の印象が“実話怪談”の源流に近いものを感じさせ、これはこれでなかなか良い雰囲気を持った作品であるだろう。
意図的に読者を怖がらせるのも怪談であるならば、こういう事実のみの提示で怪異を語るのも怪談の妙である。
絶品とはいかないが、有意の作である。